NOWNESS Shorts: Casete Rojo
コロンビアの農村で、ひとりの少女はシャンペータを踊るためなら何も厭わない。悲しみに沈む父を目覚めさせるため、彼女は新たな危険へと踏み込んでいく
コロンビアで撮影されたヴィクトル・バスティダスの短編映画『Casete Rojo』は、父親に止められてもなお、シャンペータに合わせて踊りたいという少女の揺るぎない衝動と、音楽を通して父との距離を縮めようとする複雑な試みを描く。共に喪失を抱える父と娘の肖像。悲しみによって生まれた隔たりを埋め、父を眠りから目覚めさせるため、少女はある危険を冒す。ふたりが囚われている悪循環を断ち切るため、父親の権威そのものに抗うのである。
ラテンアメリカの音楽に深く刻まれた感情や情動、その表象においてはしばしば見落とされてきたものに目を向けながら、エクアドル出身のバスティダス監督は、サルサ、シャンペータ、レゲトン、デンボウといった音楽を、それらに付きまといがちな性的な物語から切り離そうとした。ラテンアメリカの物語において労働者階級の人々を主人公に据え、コメディとフィクションのあいだで絶妙なバランスを保ちながら、バスティダスはこの地域の音楽的遺産と、そこに付随するイメージを解体していく。かつて上の世代から見下されていたレゲトンが、いまや南米を代表する世界的な輸出文化のひとつへと成長したことにも目を向ける。
「僕は南米の音楽が大好きだ。そこには、この地域について、階級や性、メンタルヘルスの問題について、最高の物語が詰まっていると思う。この音楽は旗のようにはためいている。南米のどの家にも当たり前のように流れているのに、その存在は見過ごされている。ビートが変わった時代について、そしてそのビートを聴く世代もまた変わり始めた時代について、語れることはたくさんあると思う」
ボリバル県の豊かな熱帯の風景、そしてモンテス・デ・マリアを舞台に撮影された本作は、コロンビア農村部の中心へと向かう視覚的、そして感情的な旅である。土地に暮らす人々の温かさ、エネルギー、文化を、そのまま映像へと移し替えていく。
近隣の町やカルタヘナ郊外から集めた、いわゆるナチュラル・アクター(地元の住民たち)とともに制作することで、バスティダスは描かれる現実そのものを通して映画のかたちをつくり上げた。そして、この音楽の根が張る世界の中心へと、作品そのものを連れ戻していく。
6月 21, 2024